盗癖のある利用者さんが教えたこと

ケマネジャーのつぶやき

メンタルに障がいを抱える利用者様だったと記憶していますが、体に支障はないけれど家事一切は何もできない、という方の支援でした。

ヘルパー活動時の事件

当初はほぼ毎日ヘルパーさんによる自立支援の援助をお願いしていたのですが、その方の病気の特徴でもあった猜疑心が強く、なかなかヘルパーさんと信頼関係を築けずカンファを重ねていたさなか、盗難事件が起こったのです。

数人のヘルパーさんが交代で家事援助のための訪問をしていましたが、その中で二人から財布が無くなったというのです。

そのうちの一人は管理者だったのには驚きました。まして管理者さんは、責任感をはきちがえたのか利用者を問い詰めてしまったのです。

ケアマネジャーに連絡が入ったのはその後。
本人がかたくなに知らぬ存ぜぬを押し通している状況でした。
ヘルパー事業者は「犯人であることは間違いない、警察に訴えることにしました」との返事。

利用者様がすでに「犯人」になっていました。

ハプニング後の対応処理

さて、この連絡を聞いたさい、いくつか首をかしげる点に気づきませんか。

まず、なぜ独断で利用者様を問い詰めたのか。事業所内で解決をしようとしたのでしょうが、こういう非常にセンシティブな問題は先にCMに相談すべきではなかったでしょうか。

なにもすべてケアマネを通して利用者に話をしろ、などという横暴ではありません。
少なくとも関わって日が浅い事業所よりは、CMのほうが多少ご本人との信頼関係があると考えたほうがよいのでは、と思ったわけです。
また、当事者同士よりワンクッション置くことで、あんがい素直に話が進む場合があるものです。

さらにひとりは二度も財布が無くなっており、通算三度もお金が無くなっているのです。
これは一体どういう状況だったのか首をかしげました。

他人の自室の中で作業をするときは、お互いに誤解を生んだり、嫌な思いをしないように、ヘルパーは援助中の身の回りの管理も仕事のうち、十分に注意を払う必要があります。
どういう状況で作業していたのかを疑問に思います。

どんな場合も利用者には理由がある

とりあえず興奮気味の事業所に時間をもらって本人とお話をしたのですが、なんと本人があっけらかんと「盗った」というではないですか。
さぞかし気落ちしているか、自分を責めてとんでもないことを考えていないか、はたまた冤罪かと、思いを巡らせながら訪問したところ、気が抜けてしまいました。

本人の主訴はというと、初めは知らぬ存せぬを通していましたが、しばらくすると肩を落として話しはいめたところ「ヘルパーが私の言うことを聞かないから思い知らせてやった」というもの。

何を聞かなかったの?と聞くとこれまた身勝手な内容ばかりで、ヘルパーさんたちの困った顔が目に浮かぶ思いがしました。
おそらく、不合理な要求ばかりの中でヘルパーさんたちは四苦八苦の奮闘をしたに違いありません。

そんな積み重ねの中で利用者さんは、不満を募らせ「仕返ししてやろう」と思ったのだそうです。

その時に、ヘルパーさんたちは道理の通らない要求ではあっても、そのつど「どのような対応をされていたのかな」「なぜそれが出来ないのかを丁寧に説明できていたかな」と、強く思いました。

事前に防ぐのもプロのわざ

とはいえ、盗みをしたことには違いありません。
おそらく、以前から盗癖があったのではと感じさせる雰囲気や話しぶりが随所に感じられたからです。

他機関から利用者さんの紹介を受けるときには病歴や生活歴を申し受けるわけですが、盗癖歴はなかなか伝えにくかったのでしょう。
この方はこれまでにも多々問題を起こしてきたことは明白でした。
お話の中で少し誘導すると、入院していた際にも同室の人のお金を盗んだことを自ら白状してしまい、白状したことにすら気づかないという少し認識の緩いところが、不思議と憎めない人格を作っていました。

この利用者さんに対して、ヘルパーさんたちの言動はあまりに正論でした。
理屈でも物事の成り立ちも、理解がおぼつかない利用者さんが、感情で答えを出したという例でした。
高齢者の援助と違い、障がい者で高齢でとなると精神障害や発達障害などに加え、十分生きづらい思いをしてきたであろう過去に、身につけてしまった性癖と高齢による病気が重なってきます。

ヘルパーさんたちは十二分にそういう方たちの理解と支援に長けていなければならないのです。
まして、室内訪問時には貴重品の持ち込みを禁じる規則があるはずでした。
なぜ財布を盗られるような、お互い嫌な思いをするような事態を招くまでの気のゆるみがなかったか、どうして予防することができなかったか、に一番疑問を感じる出来事でした。